2024年7月27日。パリのセーヌ川を舞台に行われた33回目のオリンピックの開会式が日本時間の未明に放送された。その数時間後、ここ日本の神戸の地で民放労連第139回定期大会も幕を開けた。視聴者の大きな関心事である日本選手らの活躍をテレビ・ラジオで伝えることは、民間放送の大きな使命の一つである。選手たちだけでなく、現地で取材する仲間や、日本の地で時差と戦いながら中継やニュースの現場で尽力する仲間たちにも、大きなエールを送りたい。
「平和の祭典」であるはずのオリンピックの熱狂の一方、世界情勢は混迷の中にある。ロシアのウクライナ侵攻から約2年半、イスラエルによるガザ地区攻撃から9か月となるが、いずれも解決の目処は立っていない。銃撃されたトランプが大統領になれば、日米関係に新たな緊張を与える可能性もある。今こそ私たちメディアは、戦禍の悲劇が二度と繰り返されないよう、8月の原爆・終戦にまつわる時期のみならず、絶えず平和へのメッセージを伝え続け、権力に忍び寄る戦争の誘惑を監視する責任がある。
村上春樹は、2009年にイスラエルの文学賞を受賞した際のスピーチで次のような言葉を残している。「高く強固な壁とそれに打ち砕かれる卵があるなら、私は常に卵の側に立つ」。「壁」は時に戦争を生み出してしまうシステム(体制)、「卵」はユニークでかけがえのない魂を持つ私たち一人ひとりのメタファーだと村上は説明している。そして、「卵」が「壁」に勝てるとしたら、お互いを信じ、魂を寄せ合わせることが必要だとも。
労働組合とはまさに、小さな卵たちが巨大な壁に立ち向かうための団結そのものと言えるだろう。性暴力と不当解雇に関する継続中の2つの争議については、総力をあげ闘っていくことは必然である。今年の春闘では、日本社会全体の賃上げの流れも影響し、ベアや一時金について昨年以上の大きな成果を獲得した。しかし、記録的円安と物価高は落ち着く兆しがなく、来年以降もこの歩みを止めずにさらなる成果につなげていくことが必須である。他社からの情報が交渉にいかされるケースも多く、我々が団結することの意義は依然として大きい。
一方で、新しい人事制度の導入や、若手に比重をかけた賃金アップ、雇用形態の多様化などにより、私たち放送業界の労働者全員が一枚岩としてたたかうことが難しい局面も生まれている。放送業界を支える構内スタッフの待遇は依然として厳しいままである。また、コロナ禍を経た社会のリモート対応により、地連を中心とした地域ごとのつながりの良い部分を残しながら、規模や業態の近い全国各地の単組の団結を強めることのメリットも見えてきた。若い世代の組合活動への理解を進め、新しい世代と共に、新たな労働問題にも対応できるよう民放労連を進化させることは、今を担う我々世代の責任である。
今月、民放労連本部と関東地連の書記局は、それぞれ50年・48年の長きにわたり居を構えた四谷の地を離れ、両国に新たな事務所を共同で構えるという歴史的一歩を踏み出した。これからの将来も、豊かな放送文化が守られ、放送業界が魅力的な職場であり続けられるよう、「労働組合とはこういうもの」という固定観念から脱却し、皆で団結し未来を見据えて歩み続けよう。
2024年7月27日
日本民間放送労働組合連合会第139回定期大会